【無料チェックリスト有】監査役監査の実務と対応(新任監査役向け)

社外監査役(兼) 大手監査法人で経験を積んだ公認会計士がまとめました!

監査役のためのマニュアルやチェックリストの類は、色々なものが出回っていますが、実務で利用しようと思うと分厚過ぎたり、曖昧な書きぶりであったりで、使い勝手が良いものがなかなか見つかりません。

そこで、現役社外監査役で大手監査法人出身のベテラン会計士(中井達也公認会計士・元有限責任 あずさ監査法人)に、最低限理解しておきたい「“新任向け”監査役監査のポイント」についてまとめていただきました。

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現役監査役が教える監査役監査のポイント

監査役の職責・・・重いです・・・。

会社法上、取締役の職務遂行を監視するのが、監査役であり、株主によって選任された、代表取締役社長からも独立した存在であるのが監査役です。

それほどの重責ですが、監査役という仕事に対する知識を十分にもって新たに就任される方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。

でも、大丈夫です。多くの会社の場合、前任監査役が実施した監査手続や監査調書がありますので、それを真似すればとりあえず任期は過ごせるでしょう。ましてや上場会社や会社法上の大会社等であれば、監査役スタッフや会計監査人(監査法人)もいるため、言われるままに了承していてもいいでしょう。

しかしながら、それでは、会社のコーポレート・ガバナンスの重要な一翼を担っているとは言えません。

また、「新任だから・・・」、「会計とかよくわからないし・・・」、「取締役会で発言するにも的外れかもしれないし、恥ずかしいな・・・」と言った言い訳も外部には通用しません。

それゆえ、日々の研鑽が必要となりますが、どこからどう手を付けたらよいか・・・、と考えているうちに、毎月の取締役会開催日がきます。欠席は・・・できません。

そこで、公認会計士、税理士として、長年、監査役の方々と接し、また自分自身、現在、監査役をしている、私から「これだけは掴んでおこう」と言う監査役監査のポイントを、お伝えします。

監査役として抑えておくべき点は大きく以下に大別されます。

1⃣ 財政状態・経営成績の把握

基本中の基本です。会社の財政状態・経営成績を知らずして、会社のためになる監視も助言もできません。

また、会社の状態を把握すると言うことは、売上高や利益だけを知っているだけでは足りません。予算と実績の乖離状況、過年度からの実績の推移に加え、資金繰り、個別の投資案件の採算性、財務諸表に現れていない将来の損失や負債の発生可能性も把握しておく必要があります。

2⃣ 企業リスクの把握

会社が外部へ向けて営利活動をする以上、様々なリスクに晒されます。資産の横領、法令違反、欠陥製品、情報漏洩と言った不祥事系のリスクもありますし、為替変動や市場環境変化と言った損失系のリスクもあるでしょう。その他、自然災害リスク、海外展開している場合は地政学的リスク(戦争、政変、内乱)も考えられます。

これらのリスクが顕在化しないよう、会社がどのようなリスクに晒されており、それに対する予防策をどのように行っているかを把握しておくべきであり、万一、発生した場合、会社として迅速な対応ができるマニュアルの存在を確認する必要があります。

3⃣ 内部統制の整備運用状況の把握

会社は、適切なルールに基づき、それに従って従業員の皆様が行動してくれることで成り立ちます。予算・業績の把握、企業リスクの把握をする上でも、作成された資料に改竄があれば、分析は何の意味ありません。

監査役として、取締役の適切な判断を行うためには、会社の内部統制が適切に整備され、有効に運用されていることが、大前提です。

会社の業務フロー手順が適切に作成され、それが有効に運用されていることを監査役として確認することは勿論、経営層がそれを適切にモニタリングしているかを確認することが肝要です。

財政状態・経営成績の把握

まずは財務諸表が適切に作成されているかを検証

会社の財政状態、経営成績を表すものが財務諸表(貸借対照表、損益計算書等)ですので、まずは会社の経理部門で作成されている財務諸表が適切に作成されているか検証しましょう。

財務諸表を作成するためには、具体的な簿記の技法や会計処理の方法を詳細に学ぶ必要がありますが、監査役にはそれらは必要ありません。それらの基礎になっている考え方や基本的な仕組みを理解していれば十分です。

 

【ポイント】

  • 経理部門の責任者(経理担当取締役や経理部長)から、月次業績や業績見込みの説明を受けましょう。同時に営業部門の責任者より営業の概況を聞き、その内容と齟齬がないか、検討してみましょう。

 説明を受ける際、気を付けるポイントについては、監査役監査ツールキット・「これは知っておきましょう!財務諸表の説明時のポイント」でご確認ください。

  • 取締役会、経営会議で議題となった損失処理事項や稟議書で損失処理が申請されている事項につき、どのような会計処理を行ったか、経理部門の責任者に質問しましょう。勿論、これらを実施するためには、取締役会、経営会議への出席と稟議書の閲覧が前提となります。
  • 将来、発生する可能性のある費用や損失を把握しましょう。ある日、突然、多額の損失が発生する可能性があります。それらはある一定の要件を満たせば財務諸表に損失として反映されますが、反映されない場合もあります。将来、費用や損失が発生するのは、発生するのは、次のようなケースです。

【ありがちな隠れ損失】

◊ 土地含み損

◊ 販売後の返品・保証

◊ 賃借物件の原状回復費用 など、

他のケースや具体的な内容については、監査役監査ツールキット・「ありがちな隠れ損失!」でご確認ください。

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  • 会計監査人が設置されている場合、会計監査人から監査結果をよく聞きましょう。「財務諸表は適正です」の一言だけではなく、監査を行う上で重要と判断した項目について、重要と判断した理由、当該項目が妥当であることを検証するために実施した監査手続、その結果を聞きましょう。監査報告書の一番上に名前のある公認会計士自らきちんと説明できているでしょうか?

 

財務諸表を分析しましょう。

財務諸表が適切に作成されていることが検証できましたら、次はこの財務諸表を分析しましょう。分析は予算と実績比較、前期実績と当期実績の増減比較、月次推移比較等を行います。前期実績と当期実績を比較する場合、前々期実績も並べた方が趨勢はよくわかるでしょう。

更に詳細に分析して、より会社の状態を理解したと言う方は、監査役監査ツールキット・「より会社の理解が進む財務諸表分析!」をご参照ください。

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予算実績比較分析等、いずれの場合も、著しい増減には必ず理由があり、経営環境の変化や不正の端緒である可能性もあります。監査役として、その端緒を見逃さないように注意深く分析を進めましょう。

監査役が自ら分析資料を作成する必要はありません。監査役は予算作成部門等が適切な分析を行い、経営者に報告していることを確認しましょう。そして、その分析結果をより批判的に見分することが必要です。

【ポイント】

  • 予算作成部門等が適切な財務諸表分析を行っているか、経営層に報告されているか、確認をしていますか?
  • 自身が疑問に思った点をヒアリングしていますか?
  • 予算は達成への阻害要因はありませんか?阻害要因がある場合、経営層に対応策を確認していますか?
  • 分析の結果、経営環境の変化が考えられる場合、経営層に対応策を確認していますか?
  • 不正の可能性がある場合、経営層や適切な部署、場合によっては顧問弁護士に通知していますか?

 

資金繰りの把握は生命線

しかしながら、会社の業績を把握しているだけでは足りません。

損失が続き、抱えている負債が資産を超過する、「債務超過」の状態になっても、「債務超過」イコール「会社の倒産」ではありません。「債務超過」であっても、銀行から融資を受けていて、資金繰りがついている会社もあります。「会社の倒産」とは「支払不能」になった状態のことを言います。

逆に、利益が出ていても、倒産するケースもあります。いわゆる「黒字倒産」と言われるものです。

例えば、商品100万円を買掛金で仕入、この商品を150万円で売掛金販売した場合、損益計算書上は50万円の利益が計上されていることになります。しかしながら、売掛金が現金となるのが、3カ月後なのに、1ヶ月後、買掛金の支払いをしないといけないのであれば、資金不足に陥ります。

この期間、手元に現金があれば問題ありませんが、なかったら、銀行の融資を受けないといけません。融資をしてくれるところがなければ、資金不足に陥り、たちまち倒産です。仮に融資を受けられたとしても、金利(利息)を支払わらないといけません。この金利負担が重ければ、会社業績に大きな影響を与えます。

買掛金、金利以外でも、従業員の給料、税金、設備投資、諸経費等、お金が出ていく口はいくつもありますが、お金が入ってくる口は売掛金のみです。会社を存続、維持するにはお金が必要です。

このように、資金繰りは会社の生命線と言えますが、貸借対照表や損益計算書のみを見ていても、資金繰りはよくわからないですので、会社は資金繰り表も作成する必要がありますので、監査役として資金繰り表の確認は必須です。

【ポイント】

  • 手元資金が不足し、金融機関から借入をしないといけない月はありませんか?
  • 金利負担はどれくらいですか?売上高の何%を占めていますか?一般的に金利が売上高の3%になれば、危険水域と言われます。
  • 手元資金が出ていく箇所はいくつもありますが、資金が入ってくるのは売掛金のみです。売掛金が現金化される期間を把握していますか?それは買掛金の支払期間に比し、長すぎませんか?
  • どんどん生産や仕入をして、在庫を計上しても(貸借対照表上は資産の計上になります)、売れなければ、それは「庫」ではなく、「庫」です。過剰在庫の金額、消化状況は把握していますか?そもそも過剰在庫の定義は正しいですか?単に1年間経過したから過剰在庫にする等、安易な定義になっていませんか?

 

設備投資計画の妥当の把握

設備投資には多額の資金がかかります。会社の資金を使う以上、投資の目的が明確であり、且つ、投資額以上の効果が見込まれないといけません。しかしながら、神様ではありませんので、回収額が投資額以下になることもあると思います。

ですので、投資意思決定の際、「会社として、あらゆるケースを想定し、検討した結果」を記録しておき、いつでも誰にでも説明できるようにしておくことが肝要です。

【ポイント】

  • 設備投資の回収可能性、回収期間のつき、十分に検討が行われていますか?
  • 正式な会議、決裁を経ていますか?

企業リスクの把握

上述したように、会社は様々なリスクに晒されています。想定されるリスクを把握し、予防策を立てておくことが肝要ですが、監査役として、最も留意すべきリスクは、やはり資産の横領、法令違反、欠陥製品、情報漏洩と言った不祥事系のリスクでしょう。

このようなリスクは発生し、会社外部に伝わった場合、世間の会社への信用は想像以上に失墜します。

そのためには、発生前(平常時)の対応として、不祥事の予防・監視体制の構築・運用状況を確認し、その問題点の有無を取締役会等にフィードバックする必要があります。監査役が状況確認すること自体が、不祥事に対する抑止力となります。

そして、このような転ばぬ先の杖としての、平常時からの予防が第一ですが、万一危機が発生した場合、執行側の対応を適切にモニタリングし、再発防止策の評価まで行うことが必要です。

また不祥事を発見する手段として、内部通報制度が有効です。内部通報制度を確認しましょう。通報者の情報が漏れないようになっていることが肝要です。

資産の横領

私は長年、監査に従事し、従業員による横領事案も何度となく見てまいりましたが、最初から悪意をもって、横領を始めたケースは見たことがありません。

きっかけは、ちょっと会社のお金を借りてすぐに返すつもりだった、上司が怖いのでミスを隠して後で処理するつもりだった等、ほんの出来心が積み重なり、後戻りできない金額となり、発覚すると言うケースばかりでした。資産の横領は会社に損害を与えるだけでなく、従業員は退職を余儀なくされます。

会社のためは勿論ですが、従業員のためにも、後述する内部統制を適切に構築し、「従業員を守ってあげる仕組み」を構築しておきことが大切です。

資産の横領を予防する一番の方法は、従業員に現金や現金同等物を触らせないことです。当たり前のことですが、当たり前のことができているか、きちんと確認する必要があります。

具体的な内容については、監査役監査ツールキット・「こんなケースは危ない!従業員による不祥事例」でご確認ください。

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しかしながら、予防策を講じていても、資産の横領が発覚するかもしれません。その場合、監査部等、適切な部署が調査を行い、当事者を処分した上で、発生部署で再発防止策を適切に立案しているかまで、確認しましょう。そして、不正事例として、社内研修等で社内に周知することも必要です。

また、事案の内容によっては、顧問弁護士に連絡し、第三者による調査委員会を立ち上げることや、当事者の名前を公表することも検討すべきでしょう。

法令違反

会社が守るべき法令等は無数にあります。財務に関係する金融商品取引法や会社法のみならず、労働基準法、独占禁止法、下請法、暴力団排除条例等・・・・・。

守るべき法令は、その把握や社内への周知・徹底が難しい上、分かっていても、忙しさや収益確保を優先して違反してしまう事例も少なくありません。

【ポイント】

  • 守るべき法令に、どのようなものがあるかを、法務部、総務部、監査部が適切に把握し、従業員にどのように伝達しているか、確認しましょう。
  • 法令違反があった場合、調査、報告、再発防止策の立案が適切になされているかモニタリングしましょう。
  • 執行側の対応が悪い場合、執行側に申し出ると共に、必要に応じて、社外取締役、社外監査役に相談することも考えられます。

欠陥製品

製品に不具合が生じたら、軽微なものであっても、即座に点検、補修を行う必要がありますが、不具合の情報を現場が隠蔽していたら、対策の立てようもありません、ある日、突然、大きなクレームになり、大きな損害になる可能性があります。

【ポイント】

  • 不具合の情報を収集する体制はできていますか?
  • 設計部門と品質管理部門は別になっていますか?設計部門が品質管理を兼ねていたら、自分のミスの情報を自分が集めることになるので、不具合を隠蔽しようとする土壌があるということになります。相互牽制できる組織体制になっていますか?また外部から不具合に関するクレームが隠蔽されないよう、どこがクレーム対応窓口にするのかも検討の余地があります(人員的に難しい面はあるかと思います)。

情報セキュリティー違反

高度情報化社会、情報は常に危険に晒されており、また一度、漏洩した情報は、たちまち世界中に拡散してしまいます。これは会社機密が外部に流れただけではなく、世間の会社への信用が想像以上に失墜します。

【ポイント】

  • 重要な書類や情報の作成・保存・管理に関する規程やマニュアルは作成されていますか?社内研修の実施する、社内イントラで閲覧できる等、情報管理の重要性が従業員へ周知徹底されていますか?
  • 個人情報や機密情報等に関するアクセスできる関係者は限られていますか?
  • 重要書類は適切にファイルされ施錠されていますか?事務所の入退室の管理はできていますか?
  • 災害等の危機対応は適切ですか?システムやデータが壊滅した場合のバックアップ体制を確認しましょう。

 

 内部統制の整備運用状況の把握

会社に在籍されている方で内部統制という言葉を聞いたことがない方はいないでしょう。内部統制とは業務が適正かつ効率的に遂行されるように組織を統制する仕組みです。

日々の業務がルールに従い適切に運用されてないと、経営層も適切な意思決定はできませんし、不祥事も起こりますので、内部統制が適切に整備され運用されていることを、監査役としてきちんとモニタリングしないといけないところです。また、従業員の方々からは「内部統制は面倒だ」と言う声もあるかと思いますが、「3.企業リスクの把握」で前述したとおり、「従業員を守ってあげる仕組み」でもありますので、従業員の方々に、内部統制の重要性を認識してもらうよう、監査役として啓蒙をしていく必要があると考えます。

とは言え、内部統制ってどんなもの?と具体的に説明するのは難しいですが、要諦は承認、記録、相互牽制(組織分掌・職務分掌)、第三者のモニタリングです。

そして、内部統制は、会社の販売プロセス、購買プロセスと言った業務プロセスごとに設定されます。会社の主要な業務プロセスにおいて、最低限、抑えるべき主なポイントについては、監査役監査ツールキット・「ここは抑えましょう!内部統制のポイント」でご確認ください。

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なお内部統制は本社だけでなく、子会社、営業所まで気を配らないといけません。範囲は広いですので、内部監査部等、適切な部署に内部統制の整備、運用状況の確認を指示しないといけません。

 

 監査調書の作成

今まで監査役監査のポイントを記載してまいりましたが、監査役として責任を果たしたと、外部に説明するためには、監査結果を調書としてまとめる必要があります。

調書としてまとめていない以上、外部から見れば、監査役としての責務を果たしていないと言うことになります。「No Document=No Procedure」です。

法律で定められた調書のフォームというものはありませんので、自由に記載すればよいですが、以下の事項は必ず記載しておくべきでしょう。

記載すべき事項

  • 実施日、実施場所、実施者

監査役の監査報告書の提出日までに実施したことや、責任の所在を明らかにするために記載すべき必須の事項です。

  • 対象者

監査対象となった部署名、対応してくださった方の氏名、役職名は必ず記載しましょう。調書として記載すべき事項は、この対応者に必ず確認し、内容に齟齬がないようにしておきましょう。

  • 実施目的

どのような目的で監査を実施したかを明確にしておきます。これが監査役として責務を果たしているかどうか、外部への説明する際に大変重要になってきます。

  • 実施した手続

実施目的に整合した手続きを記載する必要があります。実施手続きには重要会議への出席、重要書類の閲覧、関係部署への質問、現金等の現物の確認等があります。

  • 実施結果

結果が妥当であったか、不合理な点はなかったかどうかを記載します。大事な点ですので、結論は明確に記載しましょう。

  • 監査役所見

監査の結果を記載します。結果以外として、全体に影響しない不備事項や今後改善すべき事項を記載します。単に適切かかどうかだけを述べるのではなく、ここで誰もが気が付いていない潜在的なリスクや業務の効率化に資することを伝えらえると、監査役としての付加価値が高まります。

具体的な調書例については、監査役監査ツールキット・「このように作成しましょう!監査役監査調書例」をご参考になさってください。

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まとめ

以上、いかがでしたか?

記載したとおり、監査役がチェックすべき範囲は広域にわたります。限られた時間中で効果的・効率的に監査役監査を進めるうえで、ご参考にしていただけたらと思います。

私自身、今後も現役監査役として、しっかりと業務をこなしていきたいと思っております。共に会社のコーポレート・ガバナンスの重要な一翼を担っていきましょう。

(中井達也)

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