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事例あり)金融商品の時価開示

  • 9月 19, 2023
  • 9月 19, 2023
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公認会計士の中井達也さんから、「金融商品時価開示(借入金の時価注記)のアドバイザリー業務を提供したので、ノウハウをシェアします!」との有難いお申し出をいただきましたので、このページにアクセスいただいた方と以下、シェアさせていただきます!

概要・サマリー

金融商品の開示に関する変更と内容

  • 2010年3月期から金融商品の時価開示が始まり、2022年3月期に内容が拡充された。
  • 開示内容には、金融商品に対する所有方針、所有している金融商品の内容やリスク、リスク管理体制、時価情報などが含まれる。
  • 時価情報には、それぞれの金融商品の時価及び貸借対照表上の額に加え、採用した時価の概要を注記する。

 

金融商品の定義

  • 金融商品は「金融資産」と「金融負債」に大別される。
  • 金融資産には現金預金、受取手形、有価証券など、金融負債には支払手形、買掛金、借入金などが含まれる。

 

金融商品の時価及び開示の必要性

  • 金融商品の時価は市場参加者間の取引価格を基に算定される。
  • 金融商品は貸借対照表上、時価で計上されているものも計上されていないものもあるが、いずれの金融商品も、その時価は投資家や株主にとって重要な情報であるため開示が求められる。
  • 時価開示は2010年3月期から始まり、その後も拡充されている。

 

金融商品の時価算定

  • 公開市場で取引される金融商品は取引価格が時価となる。
  • 公開市場で取引されないものには、類似の金融商品の価格を元に算定したり、DCF法で時価を求めたりする。
  • 一部の金融商品(借入金など)の時価算定には、専門家に依頼することなく自分達で計算できる場合もある

 

1.はじめに(制度の要求事項)

2010年3月期から有価証券報告書等の注記事項として、金融商品の時価の開示が開始され、2022年3月期にその開示内容が拡充されました。

 

現在、求められている「金融商品の時価開示」の開示内容は以下のとおりです。
<金融商品に関する会計基準 第40-2項>

(1) 金融商品の状況に関する事項

① 金融商品に対する取組方針

② 金融商品の内容及びそのリスク

③ 金融商品に係るリスク管理体制

④ 金融商品の時価等に関する事項についての補足説明

 

(2) 金融商品の時価等に関する事項

市場価格のない株式等については時価を注記しないこととする。
この場合、当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記する。

(3) 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記

 

金融商品とは、どのようなモノでしょうか?

2.金融商品の種類

金融商品と聞くと、投資の話で、株式、債券、投資信託、デリバティブ取引などが思い浮かびますが、会計で言う金融商品とはもっと範囲が広くなります。

会計における、「金融商品」は大きく分けて「金融資産」と「金融負債」の2種類に区分されます。

■金融資産

現金預金、受取手形、売掛金及び貸付金等の金銭債権、株式その他の出資証券及び公社債等の有価証券並びに先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引(デリバティブ取引)により生じる正味の債権等をいう

<金融商品に関する会計基準 第4項>

 

■金融負債

支払手形、買掛金、借入金及び社債等の金銭債務並びにデリバティブ取引により生じる正味の債務等をいう

<金融商品に関する会計基準 第5項>

 

会計における金融商品には、現金預金に加え、受取手形、売掛金、買掛金、借入金等の金銭債権債務も「金融商品」の範囲に含まれてくる点がポイントです。

会社の貸借対照表の主要科目で言えば・・・
有形無形固定資産、リース資産、繰延税金資産・負債、引当金、純資産以外、全てが金融商品と言っても良いかもしれません。

 

 

金融商品の時価とはどんなものでしょうか?
なぜ、時価を開示する必要があるのでしょうか?

3.金融商品の時価及び開示の必要性

会計では、これら金融商品の時価を開示することが求められています。
金融商品の時価は以下のように定義されています。

 

 金融資産及び金融負債の「時価」の定義は、時価算定会計基準第 5 項に従い、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格とする。
<金融商品に関する会計基準 第6項>

時価とは、その時点での価格、すなわち商品やサービスが取引される際の価格を意味します。

価格は売りたい人(供給)と買いたい人(需要)にバランスにより、決定されますので、その時点の取引価格が時価とされます。

すなわち、

金融商品の時価は、その時点の換金価値を表しており、投資家や株主と言った利害関係者には大変重要な情報です。

しかし一方、

時価で会計計上されていないものモノもあります。
現金預金、受取手形・売掛金・貸付金等の金銭債権、支払手形・買掛金等の金銭債務、借入金などです。

また有価証券の中でも、満期保有目的の債券や子会社関連会社株式も時価で計上されません。

時価で計上しないことは、それぞれきちんとした会計上の理由があり、このこと自体に問題はありません。

しかし、このような金融商品が含み損を抱えている可能性もありますので、時価は投資家や株主と言った利害関係者には大変重要な情報です。

また、時価で計上されている金融商品であっても、どのような時価でもって計上しているのかも大変重要な情報です。

そのため、2010年3月期以降、有価証券報告書等の注記事項として、金融商品の時価開示が開始され、その後も開示内容が拡充されています。

 

具体的には時価をどうやって算定するのでしょうか?

4.金融商品の時価算定

金融商品が公開市場で取引されている場合、その取引価格が時価となります。株式、債券、投資信託などは、これに該当しますので、わかりやすいですね。
これらの時価はネットで検索したり、金融機関等に聞いたりできます。

しかし、すべての金融商品が公開市場で取引されているわけではありません。
金銭債権債務、借入金は当事者間の取引です。
また、一部のデリバティブ商品など、内容が複雑すぎて、公開市場で取引されていないものもあります。

公開市場で取引されていないデリバティブ商品などは、似たような他の金融商品の価格を元に時価を計算する方法やDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)により時価を求めます。
このような複雑なデリバティブ商品を所有されている会社は稀かと思いますが、所有されている場合、専門家に時価を計算してもらうしかないでしょう。

しかし、

売掛金、買掛金、借入金と言った金銭債権債務はどの会社にも必ずあります。
これらは世間の金利相場や借手貸手の信用状況により価値が変わります。
つまり、時価、すなわち、その時点の価格は、その時点の金利相場や信用状況により決まってきます。

但し、

金銭債権、金銭債務は基本的には短期間で決済されます。
そのため、金利相場や信用状況の変化はほとんど無視して構わないでしょう。
すなわち、簿価イコール時価と考えても差し支えないでしょう。

しかし、

返済までの期間が長期になる借入金はそうはいきません。
返済までの長い間に金利相場や信用状況は変化しますので、その時点の時価を算定するには、その時点の金利相場や信用状況を勘案する必要がありますので、簿価イコール時価と見なすことはできません。

では、どのように時価を算定するのか?
長期借入金の時価の算定は以下の方法によることが一般的です。

元利金の合計額を、同様の新規借入を行った場合に想定される利率で割り引いた現在価値により算定する。

すなわち、

借入金から生じる将来キャッシュアウト・フロー(元本返済額と金利支払額)を準備できれば現在なら、いくら借りられるかが、借入金の時価と言うことです。

借入金の時価算定はそれほど複雑ではないため、専門家に依頼せずとも、自分達で計算することができます。

具体的な借入金の時価算定は、以下の「借入金時価算定シート」をダウンロードしてご活用ください。

 

ダウンロードの申込(画像をクリック)

 

(公認会計士 中井達也)